非常用ディーゼル発電機が故障したまま燃料を交換していた韓国原発 韓国国営電力会社幹部の自殺 収賄での逮捕・拘束 「韓国原発マフィア事件」の全貌1
「古里原発で電気が止まり、非常用発電機も動かなかったというが、大丈夫なのか?」
白髪にめがね、恰幅のいい男が会話を聞いていた。釜山市の市議会議員、キム・スグン(52)である。
2012年2月20日。場所は釜山市機張郡日光面の食堂。
原発の電気が止まった?
外部電源喪失の重大事故?
原発に事故や不具合があれば、市会議員の携帯電話にメールが送られてくるはずだ。
キム議員は古里原発に何度も電話をかけ、やっとキム・ギホン古里原発経営支援処長に会うことができた。
「それはなんの話ですか?」(古里原発のキム処長)
隠された事故が暴露された。
3月13日。韓国原子力安全委員会。
「先月9日午後8時半ごろ、点検整備中だった古里原発1号機の外部の電源供給が中断し、非常用ディーゼル発電機が作動しない状況が発生した」
「発電所の電源が12分間喪失した、と韓国水力原子力が報告してきた」
一ヶ月以上がすぎての公式発表。キム議員の告発がなければ、国営企業「韓国電力公社」の子会社「韓国水力原子力(韓水原)」は、重大事故を隠し続けたに違いない。
古里原発1号機は1978年に運転を開始した「韓国最古の原発」。原子炉と建屋を造ったのはウェスチングハウス(WEC 現在は東芝の子会社)である。当然、非常用ディーゼル発電機も34年前に設置された「骨董品」だ。
この時点で、非常用ディーゼル発電機は「反応しなかった」という公表だった。
「外部電源喪失→非常用ディーゼル発電機自動起動」のはずが、発電機は静かなまま。何も起こらなかった。
非常用ディーゼル発電機は「二重防護」の2台と予備の計3台。
非常用のマニュアルでは、予備発電機を手動起動する手順だが、作業員は何もしなかった。
<予備非常発電機を稼動するには10分間ほど必要だが、12分で問題が解決されたので予備非常発電機は稼動しなかった>(韓水原の釈明 中央日報2012年3月14日)
この時点でWEC製原発は「アウト」だ。米国原子力規制委員会の規定では、
「起動から10秒以内にフル稼働しなければならない」
「10分」は「10秒」の60倍だ。
事故発生当日午前。韓国知識経済部と韓水原は「原発故障防止対策」を発表した。
「故障ゼロを目指す」
「作業員の過失にはその上司を含め厳罰を科す」
「故障ゼロ」の大号令。10時間もたたないうちに「レベル2」の重大事故。
やはり、原子力は呪われている。
現場で事故を見ていた者は、60人とも100人ともいわれている。
現場を監視、監督するために派遣されていた韓国原子力安全技術院(KINS)の職員全員が「事故の事実をまったく知らなかった」。
3月14日。古里原発の正門前では数十人が抗議を行った。警察官約20人がゲートを守っていた。騒ぎを見ていた韓水原の職員は、中央日報の記者にこう漏らしたという。
<安全に問題はなく、報告が適時にできなかっただけなのに、なぜ大騒ぎするのか分からない>(3月15日)
ゲートの向こうでは、韓国原子力安全委員会の特命チーム23人が、巨大な非常用ディーゼル発電機の前にいた。
「油圧バルブが原因だと推定できる」
韓水原は「エンジンに点火する装置」が動かなかった、と説明した。
事故から一ヶ月が過ぎている。
「今は動くんですね?」とたずねた原子力安全委員は、韓水原職員の返事に絶句した。
「いいえ、今も動きません」
「あなたたちは、非常用ディーゼル発電機が故障したまま、燃料を交換していたのか?」
同じ日。事故当時の発電所長、ムン・ビョンウィが補職解任された。
「誰が事故を隠したのか?」
原子力安全委員の追及に、ムン元所長は、
「私が決めた」
<韓水原のある関係者は「停電事故が落ち着いた直後、ムン前所長を含めた現場幹部らが集まり、事故と関連した会議をしていたことは知っている」><「この場で、事故が外部で漏れた場合の波紋を懸念する声があり、最終的に報告をしないことに決めたようだ」>(中央日報 3月16日)
翌16日。原子力安全委員会。
「非常用ディーゼル発電機が現在、作動するかについて、15日に性能試験を行った結果、非常用ディーゼル発電機を動かすために空気を供給するバルブのソレノイドバルブの故障で動かなかった」
非常用ディーゼル発電機は、非常時に役に立たない。
製造責任は、ウェスチングハウスにある!
事故の原因究明がまったく進まないなか、次は贈収賄事件が古里原発に襲いかかった。
<古里原発に複製部品、不正納品黙認の職員を拘束>(中央日報 4月26日)
拘束されたのは、単なる「職員」ではない。55歳の韓水原古里原子力本部長。古里原発の最高責任者だ。
複製部品は中性子検出装置を入れる密封ユニット。原発事故監視の中枢である。
報道を総合すれば、事件は次のように進行した。
韓水原の取引先の機械メーカー社員が、納品管理の最高責任者にこう切り出した。
「仏アレバ社製密封ユニットの現物と設計図を渡してくれたら、格安のコピー製品が作れます」
原子力本部長は、現物と設計図を渡し、8000万ウォン(約746万円)の賄賂を受け取り、コピー製品が原子炉に取り付けられた。
国営電力会社重役拘束の大事件だが、これは巨大疑獄「韓国原発マフィア事件」の序章にすぎなかった。
4月26日。韓水原霊光原子力本部の49歳の部長が拘束された。
霊光原発の原子炉にもコピー製品が取り付けられていた。
拘束された部長は、納品の権限を与えられるとすぐに不正な取引を始め、1億ウォン(約917万円)の賄賂を受け取っていた。
翌27日。入金されていた金は10倍の10億ウォン(約9170万円)であると、地検特捜部が発表した。
捜査の過程で、この事件に関与した韓水原職員が自殺していたことが明るみに出た。
5月3日に拘束された韓水原職員が、同僚が自殺したあとも賄賂を受け取っていたことが暴露された。
「原子力は人類が備えている感性を麻痺させる」ことを示す典型的な事例だ。
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