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2015年1月 5日 (月)

プロパガンダ「発明」者 ギュスターヴ・ル・ボン 群集心理 安倍晋三も熱烈な信奉者?

 プロパガンダを発明したのは誰だ?

 諸説あるだろうが、フランスの社会心理学者、ギュスターヴ・ル・ボンは間違いなく有力な候補者である。

 彼が書いた『群衆心理』は、1885年に発売されると、翌年には英訳され、学術書としては史上最大のベストセラーとなった。

 ル・ボンは、1870年のパリ・コミューンや頻発する労働争議を見て、

<群衆の声が優性になったのである。この声が、王侯に、その採るべき行動を命ずる。国家の運命が決定されるのは、もはや帝王の意見によるのではなくて、群衆の意向によるのだ>(『群衆心理』櫻井成夫訳 講談社学術文庫)

「群衆の時代」がやってきた、と書く。

<今日、群衆の要求は、ますますはっきりしてきた。そして、それは、ややもすれば現在の社会を徹底的に破壊して、文明の黎明以前のあらゆる人間関係の常態であった、あの原始共産主義へこの社会を引き戻そうとする>

<群衆の神権が、王者の神権にとってかわるのである>

<群衆は、もっぱら破壊的な力をもって、あたかも衰弱した肉体死骸の分解を早めるあの黴菌のように作用する。文明の屋台骨が虫ばまれるとき、群衆がそれを倒してしまう>

 ル・ボンは群衆を怖れているように見えるが、実はまったく違う。

「群衆は個人よりバカだ」

 という奇妙な信念で群衆を徹底的にこき下ろすのである。

<集団的精神のなかに入りこめば、人々の知能、従って彼らの個性は消えうせる。異質的なものが同質的なもののなかに埋没してしまう><群衆は、いわば、智ではなく凡庸さを積み重ねるのだ>

 三人寄れば文殊の知恵……ではなく、人間が集まると、個性を失い凡庸になる?

<群衆中の個人は、もはや彼自身ではなく、自分の意思をもって自分を導く力のなくなった一個の自動人形となる>

 人間が集まれば、そこにいるのは人間ですらない?

<群衆は、ほとんどもっぱら無意識に支配されるのである。その行為は、脳の作用よりも、はるかに脊髄の作用を受ける>

 脱原発デモに参加しているとき、私はヤツメウナギのような生物に退化している!?

<すなわち、群衆は知能の点では単独の人間よりも常に劣る>

 どうよ、この断定。

<衝動的で、昂奮しやすく、推理する力のないこと、判断力および批判精神を欠いていること、感情の誇張的であることなど、その他こういう群衆のいくつかの特性は、野蛮人や小児のような進化過程の低い人間にもまた同様に観察されることである>

 ……どこまで侮辱するかな?

 ゆえに、「群衆を操るのは簡単だ」として、三つの方法を提唱している。

「断言」……議論を拒否する。群衆とは話し合うな、ということである。合理的なことを語るな。くどくど説明するな。短い言葉で言え。簡潔に言えば言うほど威厳が高まる。

「反復」……論証も何もされていない非合理的な断言……つまり「ウソ」を何度も何度も繰り返し唱えよ。反復により、断言は<あたかも論証ずみの真理>であるかのように承認される。繰り返すことによって、聞いている人間の頭の中で「既成事実」にしてしまえ。

「感染」……反復によって全体の意見が一致するとき、「意見の趨勢」が形作られる。「意見の趨勢」には、細菌のそれにひとしい激烈な感染力があり、「感じ方」を人々に強制することも可能である。

 ナチス・ドイツを思い浮かべた読者も多いことと思う。ル・ボンの思想は、アドルフ・ヒトラー、ユージン・ゲッベルズ宣伝大臣に強い影響を与えた。ル・ボン自身、ムッソリーニの熱烈な信奉者となった。

 影響は、ファシズムを育む土壌になっただけではない。1914年6月、セオドア・ルーズベルトは、ル・ボンとの会見を熱望し、実現するとこう語った。

「あなたの本を常に手元に置いています」

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