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2010年5月27日 (木)

牛を殺処分するということ

 わしは馬に乗ったことはないが、

 なら、偉そうに競馬の予想をするな!!

 牛に乗ったことはある。

 背骨が馬のように縦に揺れずに、横にグニグニ動くので乗りにくいったらない。

 生まれは、稲作地帯なのだが、山沿いの近所だけ、乳牛を飼っている農家が多かった。

 幼なじみのSちゃんの家も牛がいて、お父ちゃんは若くして亡くなり、体が不自由なおばちゃんもいて、おかあちゃんは婦人会の旅行にも行けない。

 Sちゃんは学校から帰ったら手伝い。手伝いの合間に遊ぶ、という日常を生きていた。

 そんな日常にも、騒ぎ、お祭りはあって、最大のお祭りは牛の出産である。

 近所の人が総出で子牛を母牛から引き出す。

 子牛が立ち上がると、誰もが笑顔になる。

 ある日、音楽の授業で、一人ずつ独唱する、ってのがあって、課題曲が『ドナドナ』だった。

 わしは、後に新宿ロフトを震撼させる(ホンマか?)美声でもって、浪々と歌い上げた。

 Sちゃんの番になった。

 Sちゃんは歌わない。

 口を開けても言葉が出てこない。

 はたと気づいた。

 激しく悔いた。

 お祭りの半分は、お通夜になったのだ。

 男の子牛が生まれたときは。

 男の子牛は軽トラックに載せられて、山道を運ばれていって、道の頂点で消える。

 それをわしも見送ったことがあったのに……。

 牛が殺されるということ。

 丹精込めた種牛を国家権力によって殺される人の気持ちを、わしなど慮ることも、その資格もありはしないが。

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