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2009年9月25日 (金)

「ナンバー」から拒絶された原稿 三沢光晴名勝負

「プロレスに殉じた男 三沢光晴」(『ナンバー・プラス』)が送られてきたので、そこに掲載されなかった元原稿を公開します。

 いい原稿ではありませんが、この形で完結していたことをわかっていただけたら幸いです。

「ヒクソン・グレイシーって、ドロップキック、できるの?」

 困ったことを言う。

 下ネタはかなりまじるけど、三沢光晴さんの言葉にウソはない。だから、私は三沢さんと会う仕事が大好きだったのだが……。

「とにかく、ヒクソンとやるかどうかは、やつのドロップキックを見てから決める」

 三沢さんは、時々、真顔で困ったことを言う人だった。

「三沢さん、グレイシー柔術の技に、ドロップキックはありませんよ」

 まるで、頭の悪い中学生の会話である。

 結局、このやりとりは活字にはならなかった。このまま雑誌に掲載してしまうと、読者がこう解釈してしまうからだ。

「三沢は逃げている」

 2001年4月18日。日本武道館。

 仏頂面でリングに向かう三沢光晴。

 1万6千人の観衆に向かって叫びたかった。

「三沢さんは、敵に背中を見せない。人間を無視しない。わかったか!?」

 会場はものすごい騒ぎ。

 ヒクソンに負け、小川直也に蹂躙され、「プロレスは最強の格闘技」という看板が地に堕ちても、みんな、プロレスラーが好きだから。

 しかし、三沢さんの内面を慮れば……。

「つまんねえ仕事だよ。しゃあねえか、向こうが振ってきたんだから」

 注文は断らない。「ドロップキックがない試合」でも仕事は仕事。いわば「職人の覚悟」である。

 でも、間尺の合わない仕事、ノアのコアなファンにとって満足できない試合で、三沢さんがぶっ潰されたら、どうするんだよ!?

 三沢さんの体調は、よくて70%ぐらいなのでは……。

 潰し合い。その熱狂と葛藤とビジネス……。これがあるから、プロレスは面白い!

「あんなもん、『さあ、ここから』ってときに終っちゃった試合だろ?」(対戦後の三沢)

 いや、だからこそ、霧が晴れた。いろいろなものがくっきりと見えてきた。

 三沢さんは、首の後ろを押さえることで小川直也の巨体、バカ力を完璧にコントロール。マットにはりつけにした。プロレスラーは、グラウンドの攻防では誰にも負けない。

 プロレスの必殺技は、相手に受ける気がまったくなくても必殺技である。

 そして……。

 三沢光晴とは何者なのか。

 しかし、まだ謎は残っている。たとえば、対小橋建太戦。「黄金ブランド」「品質保証」とまで呼ばれた闘いである。

 2003年3月1日。日本武道館。

 この二人以外のレスラーなら失神していて当然の25分過ぎ。三沢は、花道からリング下へと、小橋の巨体をタイガースープレックスで投げ捨てた。実況アナウンサーは叫ぶ。

「死んでしまうー!」

 なんというパラドックス!

「黄金ブランド」は、「死に最も近いから」という根拠で「品質保証」されているのか?

 すでに満身創痍のベテラン二人はなぜ、「殺し合い寸前」をやっているのか?

「ブランド」となって、貨幣と交換するため?

 ファンが「死線」を求めているから?

 わからない。技の的確さ、激しさ、エグさは過去最高。この夜の対小橋戦は、三沢さんが遺した最高傑作に違いないのだが……。

 私はもう二度と、あの夜のようには振舞えない。首を引きちぎるような小橋の逆水平チョップに、「垂直落下」の応酬に、「スゲエ、スゲエ」と呟き続けることはもうできない。

 三沢さんが死んでも、パラドックスはまったく解消されていない。だから、言葉がない。

「リングで死ねて、三沢も本望だろ?」

 そんなことを言う人は、ニューヨークで行われた対KENTA戦をぜひ観てほしい。

 何よりもまず、会場のボルテージが尋常じゃない。ここまでの「熱」が、今の日本のプロレス会場にあるか?

 KENTAは、どこからでもスワンダイブする飛び技でプロレスの「空間」を、試合の流れを一変させる打撃技でプロレスの「時間」を変えた。マンハッタンの観客にとって、初めて観るプロレスだったことだけは確か。

 三沢さんの体調はすでに最悪だが……。

「あれだけの声援を浴びたら、やっぱ、がんばるしかねえか? がんばっちゃうか?」

 師匠のジャイアント馬場が軽々とやってのけ、三沢さんにできなかった仕事がひとつだけある。それは、マジソンスクエアガーデンのメインイベントに君臨することである。

 三沢さんの最後の夢は、KENTAのようなノアの若手を押し立てて、海外に向かって航海することだったのではないか。

 夢半ば……。「晩年の」という言葉は遣いたくない。これほどまで、三沢さんの思いが沁み込んだ試合はない。

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コメント

>プロレスの必殺技は、相手に受ける気がまったくなくても必殺技である。

ナンバー、発売日に購入しました。
「一体どんな文面を”カット”されたのだろう?」と、ずっと気になっておりました。なんとなく、「納得」しました。ありがとうございました。
ニューヨークの試合は、DVD-BOXに収録されていますので、今一度じっくり観てみます。

中田さんの記事が「たったこれだけ?!」というのが、大いに不満・・でした。<ナンバー

投稿: 甲府 | 2009年9月28日 (月) 21時25分

 ありがとうございました。
 ナンバーの記事よりも、何故、三沢が引っ張り出されないといけないんだ。何故、マスコミはアッチの勝手を持ち上げるんだとムカついていたあの時を思い出せました。

 書き手さんの中に、過去にあんな本出しといて、よくも三沢さんの追悼本に名前出せたな~と思う人がいて、無駄なページだなと興醒めしました。
 編集者は気にしないものなんですね、書き手さんの思い入れは。

投稿: 志木 | 2009年9月29日 (火) 04時20分

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