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2009年8月29日 (土)

マスコミには載らない原稿

 ボツになった原稿、ってのは、まあ、たくさんあります。

 この夏は、信頼していた雑誌から「あんたはゼニならない」と言われて、ショックだし、悲しいし……。

 というわけで、タダで公開、連載します。

 それがブログの役割でもあるんだろうし。

 笑っていただけたら、供養になります。

「脱いだ女」「脱がなかった女」の50年史

中田潤

 映画『高校生ブルース』の山場は、体育館倉庫でのバイオレンスシーンである。

「私のおなかを思い切り踏みつけて!」

 悶え苦しみながら、おなかの赤ん坊の父親を睨みつける関根恵子。このとき、なんと15歳。

 しかし、本当にショッキングなのはそこからだ。

 流産し、床に伏せる娘を母親がなじる。

「流産なんて、お母さん、もう信じられない!」

 耳をふさいで突っ伏した関根恵子が上体を起こすと……。なんと、スケスケのネグリジェを着ている。

「信じられない!」のは、観客である。

 まだ高校生の娘が死にかけた、というのに、何を着せているの!?

 ベッドを出ると、乳首も股上の深いパンティも丸見えである。

 この映画の結論は「母親の教育が間違っていた」ということなのか!?

 乳丸見えで、鏡を割り、母の恋人が描いた自分の絵を硫化水素で溶かし、金魚を殺す関根恵子……。

 絶望しても、シースルー。

 彼女の主演第二作『幼な妻』の脚本を書いた白坂依志夫さんは言う。

「関根は大映の最後のドル箱ですよ。関根の裸のおかげで、あのときはギャラが出たんじゃないかな」

 逆にサバを読んで16歳の高校生を演じた関根恵子は、「きみの胸に触りたいんだ」の一言で、スポーンと可憐な素っ裸をカメラ(つまり、大衆)に晒した。

 映画評論家の寺脇研さんは、当時の衝撃をこう振り返る。

「インパクトはすさまじかった。それまで高校生役といっても、渥美マリとか20代の女優が演じていたでしょう。高校生役を実年齢の女優が演じるというのは初めてだし、デビュー作でいきなり妊娠する女子高校生を演じ、大胆に脱いでるんですから。でも、実は、大映末期のヒットシリーズ『レモンセックス路線』の映画は、そんなにエロくない。関根さんはどんな大胆なヌードになっても、明るさ、健康美が先に立って、陰惨な感じはしないんです。豊満なビーナスなんです」

 その頃、大映のセットでベテランの左ト全はこう宣言したという。

「金を持ってこなけりゃ、もうここには来ない!」

 俳優、スタッフのサボタージュは日常茶飯事。『高校生ブルース』公開後、1年あまりで大映は倒産する。

 一時的ではあったが、給料遅配は止まった。倒産までの約2年間、関根恵子は7本の映画に主演。15歳の子どもが、並み居るスター、巨匠、芸術家、職人たちを救った。「頭が下がる」とはこのことだろう。

 ネグリジェでの「サービスカット」(なのか、これ?)に前頭葉を吹き飛ばされたスケベどもは、『幼な妻』の映画館に行列を作ることになるのだが……。

 数時間後、彼らは心の中でこう叫んだに違いない。

「関根恵子のケチ!」

 この映画にはオールヌードのシーンがないからである。バストトップは、影、シーツなどによって巧みに隠される。映画のクライマックス、初夜の「貫通シーン」は、すぐにリスがどんぐりを齧っているショット(なぜ!?)に切り替わる。

 白坂さんは言う。

「俺としては、あくまで、関根のデビュー作として書いたんだよ。ところが、なぜか、『高校生ブルース』が割り込んできたんだな」

「第二の原節子」と呼ばれた関根恵子のデビューは、エース脚本家を立て、「大女優は乳首を見せない」という伝統の元、周到に計画されていたのである。ところが、別の組が低予算、早撮りで『高校生ブルース』を完成させてしまった。「会社にはもう、ストックもなけりゃ、企画もない」(白坂さん)ので、画ができたらすぐ掛けろ、ということだったようなのだ。

 だから、順番にDVDを観た筆者は、茶の間でひっくり返った。関根恵子が、またしてもスケスケのネグリジェを取り出したからだ。

「叔母さんは、私にこんなものを持たせるのよ。でも、恥ずかしいからパジャマにするわ」

 なぜ!? 頼むからまた、「乳丸見え」を着てください!

 このモヤモヤは、白坂さんにお会いしてやっと晴れたわけだけど……。「なぜ!?」はまだ続く。

『幼な妻』は、父娘家庭の建築デザイナーと天涯孤独となった女子高生の結婚を描いた常識的すぎるほど常識的なメロドラマである。

 しかし、その前年。白坂さんが世に問うた作品は『盲獣』。おそらく、世界一、インモラルなカルトムービーなのである。

 このギャップはなんなのか。

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