何も起こらない恐怖
バブル崩壊を思い出したくて、1990年1月から日本経済新聞縮刷版をめくってみた。
日経平均株価のピークは1989年の大納会で、大発会は円安、債権安、株安である。
歴史的に見れば、これがバブルの崩壊である。
しかし、そこからページをめくると、まるでホラー小説であった。
株価の長期展望は、「4万円越えは当然」という論調。
しかし、株価は300円下落、のくり返しである。ジリジリ下げる。
経済ジャーナリストが、問題にしているのは、相変わらず「狂乱地価」。地価が上がりすぎて人心は荒廃している、という論調である。
マンションは首都圏平均で6000万円台になって、先高感から需要は根強い。
<招かれざるマンション 湯の町 熱海「もう結構」>という見出しは2月19日。
「最後のババ」を引かされた日本人は一体何人?
バブルは崩壊しているのに、見出しは景気のいい話ばっかりだ。
日銀の情勢判断。景気、来年度も拡大基調。
失業率2・1%。求人倍率1・25倍。
<人不足経済>がコラムで連載されていて、中小企業の親父が「月給45万円でも人が集まらない」と嘆く。
民間設備投資21%増。
キャノン経常益10%。コンビニ最高益続く。トヨタ5年ぶり経常最高益。
バブル崩壊は、日銀が金利を引き上げたことで引き起こされた、というのが通説だが、日米の金利差がなくなってもなお、「日本勢」と呼ばれた投資家たちは、米国債を全体の3割も落札している。例年通り。
一方、ウォール街はしたたかで、1月17日にソロモン・ブラザースが日経平均プットワラントを上場。これが売れに売れた、ってことは、アメリカ人投資家は、日本株暴落に賭けていた。
私が最も「怖い」と思ったのは、1990年冒頭が、17年後、つまり今の状況と生き写しだということだ。
まず、衆参ねじれ現象。おたかさんブーム、マドンナ旋風で「山が動き」、小沢一郎幹事長率いる自民党は、年明け早々の解散総選挙を余儀なくなされた。争点は消費税。
長崎市長が銃撃された。
原油高、物価高、インフレが懸念された。
現在のサブプライムローン問題と対応するのは、アメリカの貯蓄機関、S&Lの相次ぐ破綻である。
リース、ノンバンク系最大手、ドレクセルが倒産。
前の年、読売ジャイアンツが優勝。
期待の力士、竜興山が謎の死。
亀田家が究極の手本としたマイク・タイソンが東京ドームでKO負け。
選挙戦のさなか、小沢一郎の兄貴分、金丸信は、「挙国一致の大連立内閣を」と演説した。
読んでいて恐くなった。
ひとつは、完全に床が抜けているのに、空中に浮揚しながら「まだ誰かが買ってくれるだろう」と信じ、ロシアンルーレットを続けた人々ある。簡単に言えば、投機目的で熱海のリゾートマンションを法外な値段で買った人のその後。
もうひとつは、17年前の記事なのに、全然、懐かしくない、ということだ。
ソ連がまだあって、ゴルバチョフの言動に全世界の人が注目している。野茂英雄はルーキー。1億6千万の球界最高年俸を得たのは落合博満である。
なのに、全然、懐かしくない。
この17年間、日本はまったく進歩しなかった、ということにならないか。
あれから、私が新たに手に入れたのは、パソコンと携帯電話だけである。
2007年11月は、1990年1月とそっくりである。
もちろん、2007年11月に月給45万円の力仕事を蹴る日本人はいないけど。
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